練習 17.9

課題文

ἔστιν ὁ μὲν χείρων, ὁ δ᾿ ἀμείνων ἔργον ἕκαστον·
οὐδεὶς δ᾿ ἀνθρώπων αὐτὸς ἅπαντα σοφός.

語彙

文中の語 見出語形 品詞 変化形 主な意味
ἔστιν εἰμί 動詞 三人称/単数/現在/直説法/能動態 存在する, ある
定冠詞 男性/単数/主格 χείρωνにかかる
μέν μέν 小辞 この語は変化しない である一方で
χείρων χείρων 形容詞 男性/単数/主格 より悪い
定冠詞 男性/単数/主格 ἀμείνωνにかかる
δ᾿ δέ 小辞 この語は変化しない 他方では
ἀμείνων ἀμείνων 形容詞 男性/単数/主格 よりすぐれた
ἔργον ἔργον 中性名詞 単数/対格 仕事
ἕκαστον ἕκαστος 形容詞 中性/単数/対格 おのおのの
οὐδείς οὐδείς 数詞 男性/単数/主格 誰(何)も~ない
δ᾿ δέ 小辞 この語は変化しない さらに, しかし, そして
ἀνθρώπων ἄνθρωπος 男性名詞 複数/属格 人間
αὐτός αὐτός 強意代名詞 男性/単数/主格 自身
ἅπαντα ἅπας 形容詞 中性/複数/対格 すべての
σοφός σοφός 形容詞 男性/単数/主格 賢い, 巧みな

脚注

ἔργον ἕκαστον, ἅπανταは限定の対格(P.37, §58.)。 つまり「ἕκαστοςἔργονという点において」とか「ἅπαςなことどもについて」のように読む。

出典と翻訳

テオグニス, 901-902

メモ

本課の学習項目の一つがπᾶς変化。 単語欄には書いてないが、辞書を見ると、この語はstrengthd. for πᾶςとあるので、類義語としてπᾶςと同様の変化を取るであろうことがわかる。 したがって、ἅπανταの形を正しく把握することが本課題文の主旨と思われる。

一行目

動詞がἔστινのような形になっている。 この形で語頭にアクセントがあり、文頭に来ているとき、意味は「~が存在する」のような意味であることが多い。 どんな存在があるのかというと、形容詞χείρωνおよびἀμείνωνを定冠詞で名詞化している。

μένδέ…の対によって、「一方で…、他方で…」という構成になっている。 それらがどういう点においてなのか、が限定の対格であるἔργον ἕκαστονによって定義される。

つまり、語順がずいぶんと変わってしまうが、一行目は「ἕκαστοςἔργονという点において、χείρωνな者がいる一方でἀμείνωνな者もいる」くらいの内容と思われる。

二行目

οὐδείςの直後あたりにἐστι(ν)を補うと、意味が取りやすいかもしれない。 もちろん、「~が存在する」という意味で使われているのであろう、として。

οὐδείςαὐτόςの性/数/格が一致しているので、強意代名詞αὐτόςοὐδείςのことを指している。 また、ἀνθρώπωνの属格は「~の内で」のような部分属格に考えると、文意が取りやすい。

δέは前の文章から視点や主題が変わっていることを表していることが多い。 ここでは前の文章を言い直しているように感じたので、「つまり」くらいに読むといいのかもしれない。

αὐτόςは、定冠詞がついていないものの、「(その人)自身」よりも「同じ(人)」と読んだ方がしっくりくるように思える。

σοφόςは単語欄にも「賢い」としか書いてないが、辞書をみるとskilled in any handicraftの訳語がある。 あるアクションを巧みに行うことができる、くらいに考えた方が納得しやすいかもしれない。 これが限定の対格で示されるἅπαςなことどもについて、ということになる。

以上のことを考え併せると、やはり語順はかなり変わってしまうが、「ἄνθρωποςたちの中で、同じ人(αὐτός)が、ἅπαςなことどもについてσοφόςな(人)はいない(οὐδείς)」くらいの内容と思われる。

οὐδείςが強調されていると読んで、「…などいるハズがない」としてもいいかもしれないが、そういった訳語の選択が好意的に受け取られるかどうかは、かなり微妙なところ。

まとめ

以上のことをまとめると、「ἕκαστοςἔργονということについては、苦手な人(ὁ χείρων)も(μέν)得意な人(ὁ ἀμείνων)も(δέ)いる(ἔστιν)。 つまり(δέ)、ἄνθρωποςたちの中でἅπαςなことどもについてσοφόςな人(αὐτός)などはいない(οὐδείς)」くらいの内容が、本課題文の文意と思われる。


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