練習 16.9
課題文
τακεῖς μὲν οἱ πόδες, θάττους δὲ οἱ ἄνεμοι, τάχιστος δὲ ὁ νοῦς.
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
τακεῖς | ταχύς | 形容詞 | 男性/複数/主格 | 速い |
μέν | μέν | 小辞 | この語は変化しない | μέν A … δέ B 一方でA … 他方でB |
οἱ | ὁ | 定冠詞 | 男性/複数/主格 | πόδεςにかかる |
πόδες | ποῦς | 男性名詞 | 複数/主格 | 足 |
θάττους | θάττων | 形容詞 | 男性/複数/主格 | ταχύςの比較級 |
δέ | δέ | 小辞 | この語は変化しない | μέν A … δέ B 一方でA … 他方でB |
οἱ | ὁ | 定冠詞 | 男性/複数/主格 | ἄνεμοιにかかる |
ἄνεμοι | ἄνεμος | 男性名詞 | 複数/主格 | 風 |
τάχιστος | ταχύς | 形容詞 | 男性/複数/主格 | ταχύςの最上級 |
δέ | δέ | 小辞 | この語は変化しない | μέν A … δέ B 一方でA … 他方でB |
ὁ | ὁ | 定冠詞 | 男性/単数/主格 | νοῦςにかかる |
νοῦς | νοῦς | 男性名詞 | 単数/主格 | 心, 理性 |
脚注
特になし。
出典と翻訳
不明。 但し、ターレースの断片(Fr. 128D-K)に
τάχιστον νοῦς· διὰ παντὸς γὰρ τρέχει.
最も速きものは知性(心)なり、あらゆるものを貫き走るがゆえに。
(加来彰俊 訳, ディオゲネース・ラーエルティオス, 『ギリシア哲学者列伝』, 1.1.35)
があるので、それを念頭に置いているのかもしれない。
メモ
本課の眼目の一つが-ύς, -εῖα, -ύ型形容詞の変化であるから、ταχύςの形を把握することが、本課題文の主旨であると思われる。
μένとδέの対応は一つづつのことが多いが、ここでは原級, 比較級, 最上級のコントラストをつけるため、μέν一つに対してδέが二つある。 第13課P.51の表を見ればわかる通り、ταχύςに対してθάττωνは比較級、τάχιστοςは最上級。
θάττουςは一見すると男性/複数/対格のような語尾に見えるが、P.52のἡδίωνの変化表で別形が出ているのを見れば判るように、ここでは男性/複数/主格。 これは元来-οσ-で終わる別の語幹を持つθάττοσες(この形なら、第三変化の複数/主格っぽい)であったが、母音に挟まれたσが脱落し、隣接したοとεが母音融合(P.54, §77)によってουとなるため。 つまり、θάττοσες > θάττοες > θάττους。
何らかの理由で古い版のテキストを見ていると、この部分がθάττοιになっていることがあるが、これは間違い。 現在の版のように、θάττουςが正しい。
課題文そのものは難しいところはなく、「(両の)ποῦςはταχύςである、とはいえ(δέ)、ἄνεμοςたちはもっとταχύςである、だが(δέ)、νοῦς(こそ)が最もταχύςである」くらいの内容が、その文意と思われる。