練習 17.4
課題文
πολλὰ τὰ δεινὰ κοὐδὲν ἀνθρώπου δεινότερον πέλει.
語彙
文中の語 | 見出語形 | 品詞 | 変化形 | 主な意味 |
πολλά | πολύς | 形容詞 | 中性/複数/主格 | たくさんの |
τά | ὁ | 定冠詞 | 中性/複数/主格 | δεινάにかかる |
δεινά | δεινός | 形容詞 | 中性/複数/主格 | 恐ろしい, 不思議な |
κοὐδέν | καί + οὐδείς | 小辞+数詞 | 小辞+中性/単数/主格 | そして+何物もない |
ἀνθρώπου | ἄνθρωπος | 男性名詞 | 複数/属格 | 人間 |
δεινότερον | δεινός | 形容詞 | 中性/単数/主格(比較級) | 恐ろしい, 不思議な |
πέλει | πέλω | 動詞 | 三人称/単数/現在/直説法/能動態 | ~である |
脚注
κοὐέν = καὶ οὐδέν
出典と翻訳
ソポクレース, アンティゴネー 332-333行
πολλὰ τὰ δεινὰ κοὐδὲν ἀνθρώπου δεινότερον πέλει. 335τοῦτο καὶ πολιοῦ πέραν πόντου χειμερίῳ νότῳ χωρεῖ, περιβρυχίοισιν περῶν ὑπ᾽ οἴδμασιν. θεῶν τε τὰν ὑπερτάταν, Γᾶν ἄφθιτον, ἀκαμάταν, ἀποτρύεται ἰλλομένων ἀρότρων ἔτος εἰς ἔτος 340ἱππείῳ γένει πολεύων.
不思議なものは数あるうちに、
人間以上の不思議はない。
波
メモ
本課の学習要目の一つが、不規則変化形容詞πολύςの変化を学習すること。 つまり今回はπολλάの形を正しく把握することが、本課題文の主旨と思われる。
文を二つのブロックに分け、動詞ἐστι(ν)を補い、脚注に示されているように融合した語を本来の語群に分離して考えるとわかりやすいかもしれない。 つまり
πολλὰ τὰ δεινά ἐστιν. καὶ οὐδὲν ἀνθρώπου δεινότερον πέλει.
のように考える。
文の前半は、恐らく大きな問題はないと思われる。 「δεινόςなことども(中性/複数)はπολύςなだけある」くらいの内容だからだ。
文の後半は、δεινότερονという比較級があることから、ἀνθρώπουという属格は比較の対象を表していることがわかる。 つまり「そして(καί)、何物もἄνθρωποςよりもδεινόςなものはない」というのが、文の後半の内容。
καίを逆接の接続詞として解釈した方が、日本語としては自然かもしれない。 それとも引用した訳文のように「(たくさんのδεινόςなものがある。)そして(特にその中でも)」のように解釈してもいいと思う。
δεινόςは「恐ろしい」と訳されることが多い(たとえばδεινόςなσαύρα(トカゲ)が英語dinosaurの元々の意味)語。 出典が示されず、文脈を無視してこの課題文一文だけを読むのであれば、「恐ろしい」と読んでもいいとは思う。 しかし文脈を見ると、それでは不適切だと思われる。 自然などの様々な困難を克服していく、人間讚歌と取れる内容がこの文の後に続いていくから。
辞書(LSJ = Liddell & Scott & Jones, Greek-English Lexicon, OXFORD)の訳語には、marvellously strong, powerful とか、wondrous, marvellous, strangeといった訳語が見え、have strange power として、本課題文の引用箇所や他の悲劇作品などが挙げられている。
そんなこんなを含味した上で、「δεινόςなことどもはπολύςなだけあり、そして(καί)、ἄνθρωποςよりもδεινόςなことはοὐδείςなだけある」くらいの内容が、本課題文の文意と思われる。